落選後、翁長クミコ事務所に詰めかける人々。自分の街の選挙を取材するのは、正直に言って精神的にきつい。翁長クミコさんは、まさかの「0打ち」で敗れた。接戦になり、23時以降に当落が決まると思っていた。だから20時には、のんきに飯を食っていた。完全に不意を突かれ、慌てて事務所へ向かった。そこには、人々の涙があった。2018年、稲嶺進さんが落選した夜を思い出す。心臓が潰れるような感覚。泣いている人たちに、どうしてもカメラを向ける気になれなかった。クミコさんは涙を流しながら、こう語った。「自分たちは市の予算の中身を理解している。でも、市民にその中身を伝えきれなかった」開票結果渡具知武豊 20,009票(65.0%)翁長クミコ 10,543票(34.3%)伊波かつや 228票正直、この差には驚いた。投票率は60.75% 前回から7.5%も下落した。約3,850人が今回投票に行かなかったという衝撃があった。違うルールで行われている選挙やはりこの街では、自民党は一年中、選挙をしているように見える。両陣営は、まったく違うルールで闘っているかのようだった。30年にわたって、政府が一つの自治体に執着してきた結果、利権構造の内側にいる人たちの力は、もはや誰にも止められないほど強くなってしまった。とりわけ、自民系市長となったこの8年で、その構造は生活の隅々にまで浸透した。選挙以前に、すでにそうした「土台」がある。それを、たった1週間の選挙で覆すのは、あまりにも無理があった。データが示す「名護市だけの現実」最近の衆参・県知事選を見ても、全県では非自民が勝っても、名護市に限ると自民票が上回るという構図が続いている。名護市内の得票(抜粋)2025年参院選奥間りょう 11,337票 自民系高良さちか 10,547票 非自民 当選和田ともひさ 4,507票 参政党2024年衆院選島尻あいこ 13,379票 自民系 当選屋良ともひろ 11,023票 非自民 比例復活当選2022年県知事選佐喜眞あつし 15,717票 自民系玉城デニー 15,407票 非自民 当選下地ミキオ 1,417票2022年参院選古謝げんた 12,068票 自民系伊波洋一 11,555票 非自民 当選この数字を見ると、たとえ玉城デニー知事が名護市長選に出たとしても、勝てるかどうかは微妙なところだ。前回参院選の高良さちか候補の票と、今回の翁長クミコ候補の票が、わずか4票差であることにも注目したい。これは、名護市における「辺野古反対陣営の基礎票」と呼んでいいかもしれない。しかし、この票を増やすのは容易ではないいまの名護市では、生活の中で辺野古の話題を出すこと自体が、ほぼタブーになっている。対立と分断の緊張感は、日常に影を落としている。全県選挙では辺野古反対に投票する人も、市長選になると、「反対しても、どうせ止まらないなら、暮らしの充実を」と考え、渡具知候補に入れるケースも少なくない。「辺野古に反対すれば、予算を減らされる」国が予算の蛇口を握っているという現実に憤りを感じながらも、それでも逆らい続けることはできない。その現実を受け入れるしかない。この選挙結果からは、そんな名護市民の苦悩が透けて見える。利権構造を「批判する側」から「関係する側」へここ数年、名護だけの話ではなく、日本全体に、空気の変化があるように思う。利権構造を批判するより、利権構造の中に入りたい。そんな感覚が、社会のあちこちに広がっている。問題なのは、それが個人の責任ではなく、社会の設計の問題だということだ。批判者が貧しくなり、関係者が安定する社会では、誰が声を上げ続けられるだろうか。その結果、起きるのは、権力や利権構造への沈黙。そうして、構造は壊されることなく、むしろ日常の一部として内面化され強化されていく。これは、名護に限った話ではない。公共事業、補助金、委託、どの地域でも、同じことが起きている。利権構造に「入ること」が生き延びるための合理的選択になった社会で、その構造を、いったい誰が批判できるのか。民主主義が崩壊しつつある。2018年の名護市長選挙、デマの飛び交う選挙活動がその後、日本中に伝播していったように市民の声が利権によって封殺されていく時代は、もう始まっている。一方で出口調査が示すもの沖縄タイムスの出口調査では、次の結果が出ている。辺野古移設「反対」51%「賛成」43%「反対」と答えた人の65%が翁長氏を支持「賛成」と答えた人の85%が渡具知氏を支持つまり、「自民が勝った=名護市民が辺野古を容認した」という単純な話ではない。そもそも渡具知氏は、いまだに辺野古への明確な賛否を表明していない。報道の無力さこれほどの利権構造、そして2018年の選挙に統一教会が関わっていた問題などが、どこまで市民に浸透しているのかは疑わしい。こうした事実を、有権者が知ったうえで選挙が行われてほしい。筆者として今回の結果は、報道の力のなさ、無力さを、あらためて突きつけられるものだった。中央を変えなければ、地方は変わらない結局、名護市が政府の圧力や利権構造から脱却するには、中央政府を変えるしかないのだろう。一地方自治体VS政府。この構造を終わらせるには、中央が地方に圧をかけることをやめさせるほかない。いじめを終わらせるためには、いじめられてる側が変わるのではなく、いじめいる側を変えるしかない。まして、そこには圧倒的な権力勾配があるのだ。それでも、残ったもの落選後、翁長クミコ事務所には多くの人が詰めかけた。その表情を見て、少しだけ、救われた気がした。選挙には負けた。だが、この選挙で生まれた新しいつながりや想いは、間違いなく次の時代の種になるだろう。勝ったけど希望のない選挙負けたけど希望のある選挙選挙を10年見てきて、そういうものが確かに存在することに気づいた。今回、勝敗とは別の何かを、この人たちは手にしただろう。それだけが、この無力感の中に一縷の火を灯していた。そもそも一地方議員が背負うには、あまりにも理不尽な選挙だった。帰り道ポケットの中で、ライターがじゃらじゃらと鳴った。この選挙期間の忙しさで、細かいことを考えられず、無意識のうちにライターだけが溜まっていた。帰り道、遠回りして、車の中でボブ・ディランを流しながら、ぼんやりと名護の街を眺める。あらためて、つらく理不尽な選挙だった。そして、衆院選が始まる休む暇もなく、明日からは衆院選が始まる。233議席。与党が過半数を超えなければ即刻退陣すると、高市早苗首相は明言した。裏金議員や、統一教会関連議員の公認復活には、有権者をバカにしているという怒りしかない。自民党を勝たせてしまえば、石破政権が抑えていた政治と金の自民党が完全復活するだろう。国民の生活はさらに後回しにされてしまう。RUDE NEWSとしては、沖縄選挙区を中心に、オール沖縄が分裂する沖縄2区の動向中道改革連合が選挙情勢をどう変えるのか参政党の動き(神谷代表は「リベラル狩り」という言葉を使っている)これらを重点的に取材し、記事にしていきたい。久しぶりに全国取材も敢行したい。集中して、寄付をお願いしたい。https://donate.stripe.com/14AbIU9Ez1tX5f21kDbsc00猪股東吾RUDE NEWS